- とる
- I
とる(連語)〔接続助詞「て」に動詞「おる(居る)」の付いた「ておる」の転。 上にくる語によっては「どる」ともなる〕その状態にあるという意を表す。
「しばらくここで待っ~れ」「晩飯もまだ食べ~らんのじゃないか」「腰を痛めていてだいぶ苦しんどるようだ」
〔やや尊大な言い方として用いられるが, 本来は西部方言でのもの〕IIとる【取る・執る・採る・捕る・撮る】※一※ (動ラ五[四])❶手に持つ。 《取・執》(1)離れているものを手でつかんで持つ。 手で握る。「茶碗を手に~・って見る」「書棚の本を~・る」「ペンを~・る」
(2)手に持って使う。 操作する。「船の舵(カジ)を~・る」
(3)つまんで上に引き上げる。「袴の股立ちを~・る」「着物の褄(ツマ)を~・る」
(4)手に入れる。 自分のものにする。「政権を~・る」「損して得~・れ」
(5)処理する。 仕事を進める。 運用する。 《執》「事務を~・る」「政務を~・る」(6)保存する。 残しておく。 《取》「記念に~・っておく」「明日のおやつに半分~・っておく」(7)かたく保持する。 守る。「自説を~・って譲ろうとしない」
❷それまであった所から自分の側に移す。 《取》(1)手に取って自分のものとする。「お菓子を一つずつ~・る」「お釣りは~・っておいてください」
(2)集める。 採集する。 収穫する。 《取・採》「きのこを~・る」「貝を~・る」「血を~・る」〔農作物の場合は「穫る」とも書く〕(3)捕らえる。 つかまえる。 捕獲する。 《捕》「すずめを~・る」「蝶(チヨウ)を~・る」「マグロを~・る」「熊を~・る」〔「獲る」とも書く。 昆虫など小さな動物の場合は「採る」とも書く〕(4)領有する。 支配する。 《取・執》「天下を~・る」「リーダーシップを~・る」「乾杯の音頭を~・る」「指揮を~・る」(5)分けて移す。 分けて自分のものとする。「料理を小皿に~・る」「分け前を~・る」
(6)報酬を得る。 収入を得る。「高給を~・る」「月給を~・る」
(7)(「摂る」とも書く)体内に取りこむ。 食べる。 摂取する。「食事を~・る」「野菜を~・る」「ビタミンを~・る」
(8)体を休ませることをする。 体に心地よいことをする。「睡眠を~・る」「休養を~・る」「暖を~・る」「木陰で涼を~・る」
(9)願い出て得る。 請うて与えられる。 (ア)休みをもらう。「休暇を~・る」「暇を~・る」(イ)許しを得る。 「保健所の許可を~・る」「相手の了解を~・る」
(10)取引をまとめる。「注文を~・る」「契約を~・る」
(11)自分のところへ来させてあることをする。 または, させる。 (ア)注文して持って来させる。 取り寄せて買う。「出前を~・る」「寿司を~・る」(イ)届けさせて定期的に継続して買う。 「新聞を~・る」(ウ)呼び寄せる。 呼んで療治をさせる。 「あんまを~・る」
(12)迎え入れる。 もらう。「息子に嫁を~・る」「弟子を~・る」
(13)権力によって強制的に集める。 多く受け身の形で用いる。「息子を兵隊に~・られる」「徴用に~・られる」
(14)引き入れる。 導き入れる。 《取・採》「灌漑用水を~・る」「天窓から明かりを~・る」(15)導く。 案内する。「手を~・って教える」「馬の口を~・る」
(16)つながりを設ける。 接触する。「連絡を~・る」「コンタクトを~・る」
(17)成績・資格などを得る。「良い成績を~・る」「学位を~・る」「賞を~・る」「運転免許を~・る」
(18)ある事や物の代わりにあずかる。「人質を~・る」「担保を~・る」
❸それまであった場所から別のところに移す。 《取》(1)不要なものや汚れなどを除く。 取り去る。 どける。「しみを~・る」「澱(オリ)を~・る」
(2)(「脱る」とも書く)身に付けていたものを外す。 ぬぐ。「帽子を~・って挨拶(アイサツ)する」「眼鏡を~・る」
(3)付属品などを取り外す。「箱のふたを~・る」「本のカバーを~・る」
(4)体から苦痛や不快感を除く。「痛みを~・る」「疲れを~・る」
(5)人の所有物を自分のものにする。 (ア)ある手段によって, 他に属していたものを自分のほうに移す。 うばう。「大手スーパーに客を~・られる」(イ)不法な手段で自分のものにする。 盗む。 うばう。 「だまされて土地を~・られる」「財布を~・られる」
〔金品をぬすむ場合は「盗る」とも書く〕(6)討ち果たす。 殺す。 また, 首を切る。「命を~・る」「仇(カタキ)を~・る」「敵将の首を~・る」
(7)注意・関心などを引き付ける。「テレビに気を~・られる」「移り変わる景色に気を~・られる」
(8)自由な動きをうばう。「ぬかるみに足を~・られる」「スリップしてハンドルを~・られる」
(9)受け取る。 徴収する。 (ア)物やサービスの対価として相手から金銭を受け取る。「代金を~・る」「初診料を~・る」(イ)強制的に納めさせる。 「税金を~・る」「賦課金を~・る」(ウ)契約や約束によって受けて納める。 「家賃を~・る」「月謝を~・る」「手数料を~・る」
(10)将棋・カルタ・花札・トランプなどで, 敵の駒やその場に出された札を, 自分の持ち駒にしたり, 自分の札としてうばう。「飛車を~・る」「切り札で~・る」
(11)スポーツの試合で, 得点を得る。「初回に二点を~・る」「一本~・られる」
(12)(「とってもらう」「とってあげる」など授与を表す動詞の上に付いて)他の人のために物を持って渡す。「その胡椒(コシヨウ)を~・ってください」
(13)官位・財産などを召し上げる。 没収する。「かく官爵(カンサク)を~・られず/源氏(須磨)」
❹身に負う。 引き受ける。 受け止める。 《取》(1)他より劣る評判や結果などを得る。「不覚を~・る」「若い者に引けを~・らない」「他社に後れを~・る」
(2)自分のするべきこととして引き受ける。 《取・執》「責任を~・る」「仲介の労を~・る」(3)芸・娼妓が, 客を迎えて相手をする。「客を~・る」
(4)財産や家督を受け継ぐ。「跡を~・る」
(5)身に加わる。 身に積み重なる。「年を~・る」「当年~・って二五歳」
(6)身に負わせる。 課する。 多く受け身の形で用いる。「反則を~・られる」「罰金を~・られる」
(7)(多く「…にとって」「…にとりて」の形で)…の身として。 …の立場からすれば。「一介の研究者に~・って身に余る名誉」「反対派に~・ってじゃまな存在」
❺選び出す。 選んで決める。(1)よいものを選んで使う。 すぐれているものを採用する。 《採・取》「~・るべき唯一の方策」「どちらの方法を~・るべきだろう」(2)人を採用する。 《採》(ア)会社・組織などが, 従業員を採用する。「新卒を~・る」「理科系から~・る」(イ)学校が学生・生徒を入学させる。 「一学年一八〇人~・る」
(3)ある態度や行動様式を選んでそのようにする。 《執》「毅然たる態度を~・る」「強硬な手段を~・る」「自由行動を~・る」(4)進む方向を選び出して決める。 選んでそちらへ行く。 《取》「針路を北に~・る」「徳本(トクゴウ)峠を越えて上高地へと道を~・る」「学者への道を~・る」(5)あるものを選んでそれに基づく。 よりどころとする。 《取》「史実に題材を~・った作品」(6)みずからその下につく。 仕える。 《取》「主を~・る」「師を~・る」(7)選び出す。 選択する。「この二十八日になむ, 舟に乗るべき日~・りたりければ/落窪 4」「クジヲ~・ル/日葡」
❻作り出す。 ある形にしてとどめる。 《取》(1)あるものを原料にして何かを作り出す。 《取・採》「大豆から油を~・る」「アオカビの一種から抗生物質を~・る」(2)形を作る。 形を似せて作る。「石膏で型を~・る」
(3)形を描き出す。「輪郭を~・る」「矛盾がさまざまな形を~・って表面化する」
(4)書き留める。「ノートに~・る」「控えを~・る」「メモを~・る」
(5)写す。 (ア)写真を写す。 《撮》「記念写真を~・る」「スナップを~・る」「映画を~・る」「レントゲンを~・る」(イ)音や映像を磁気テープなどに記録する。「演奏会の模様を録音に~・る」「野鳥の鳴き声をテープに~・る」「ビデオに~・っておいた映画を楽しむ」「コピーを~・る」
〔音を記録する場合は「録る」とも書く〕(6)数値などを記録する。「データを~・る」「心電図を~・る」
❼数量や物事を知る。 おしはかる。 《取》(1)数える。 はかる。「数を~・る」「カウントを~・る」「寸法を~・る」「尺を~・る」「脈を~・る」
(2)数値を集めて計算する。「平均を~・る」「統計を~・る」
(3)人数などを確認する。「出席を~・る」「点呼を~・る」
(4)解釈する。 推量する。 理解する。 受け取る。「悪く~・らないでほしい」「冗談を本気と~・られる」
(5)うまく釣り合って安定するようにする。「バランスを~・る」
(6)相手の気持ちに合うようにうまく扱う。「機嫌を~・る」「多少わるくなく~・られた事ゆゑ, 自然足しげく通ふうち/当世書生気質(逍遥)」
❽場所や時間を占める。 《取》(1)場所を占める。 場所を定めて落ち着く。「宿を~・る」「席を~・る」「会議室を~・る」「陣を~・る」
(2)場所を設ける。 ある面積を占める。「書斎を広く~・る」「スペースを~・る」
(3)予約して場所を確保する。「指定券を~・る」「金曜の最終便を~・ってある」「特別席を~・る」
(4)時間や労力を必要とする。 費やす。 かかる。「準備に手間を~・る」「一時間ほど時間を~・ってくれないか」
(5)しつらえる。 ふとんを敷く。「床(トコ)を~・る」
❾手・足・体などを動かす。 ある動作をする。(1)動きをととのえる。「拍子を~・る」「リズムを~・る」
(2)相撲やカルタなどをする。「横綱と一番~・る」「家族で百人一首を~・る」
❿(1)(「時にとって」「時にとりて」の形で)場合によって。 時によって。「人, 木石にあらねば, 時に~・りて, 物に感ずる事なきにあらず/徒然 41」
(2)たとえる。 なぞらえる。「例に~・る」「このセクションは人間に~・ってみれば心臓に当たる部門だ」
〔「とれる」に対する他動詞〕‖可能‖ とれる※二※ (動ラ下二)⇒ とれる︱慣用︱ 上げ足を~・当たりを~・裏を~・遅れを~・垢離(コリ)を~・采(サイ)を~・鞘(サヤ)を~・質(シチ)に~・死に水を~・酌を~・陣を~・先(セン)を~・大事を~・手に手を~・手玉に~・年を~・中を~・引けを~・暇(ヒマ)を~・不覚を~・筆を~・脈を~・面を~/鬼の首を取ったよう・手に取るよう取らぬ狸(タヌキ)の皮算用(カワザンヨウ)〔捕らえてもいない狸の皮を売ることを考える意から〕まだ手に入らないうちから, それをあてにしてあれこれと計画を立てることのたとえ。取るに=足りない(=足らない)取り上げるだけの価値はない。 つまらない。 取るに足らぬ。「~ない人物」
取るものも取り敢(ア)えず大急ぎで, また, あわてて行うさま。III「~急いででかける」
とる【執】暦注の十二直の一。 神仏祭祀・婚姻などに吉, 移転・旅行に凶という日。
Japanese explanatory dictionaries. 2013.